夏の終わり~流れ星

 

 

 

「ねぇ、どこまで行くのさ…」

 

「いいでしょ、せっかくだったらもっと高い所まで行こうよ!」

 

 

夏の終わりのスキー場、合宿で来たそこは、周囲の町とは少し離れたところにある。だからこそ朝から晩まで周りを気にせずに音を出せるし、俺たちみたいなオーケストラの合宿にはうってつけなのだ。

 

 

星見に行こうよ!

 

 

同期にそう言われ外に出て空を見上げても、そこはホテルの明かりが眩しくて何も見えない。

せっかく長野の山奥に来ているから星が綺麗なんだろうにと落胆していると、彼女はスキー場に上ろうよと言い出した。

 

ホテルの目の前には雪のないスキー場が広がっており、明かりのないそこはまさに暗闇である。

 

 

そう言って登り初めてどれくらい経ったか、ホテルの明かりが小さく見えるほど高い所まで来ている。俺の息はかなり上がっていて、正直付いていくのに精一杯だ。

 

 

「見て!すごいよ!」

 

 

少し前を歩く彼女が驚いた声を響かせながらそう言った。

 

 

「ほんとに?」

 

 

坂道に足をフラフラさせながら俺は上を見上げる。

すると、そこには今まで見たこともないような星空が広がっていた。

 

 

「すごい…」

 

 

思わず口からそんな声が漏れた。

 

 

「でしょ? 私の出身の町ではこれくらいの星空は普通だけど、見たことない人からしたらとてつもなく綺麗だと思ってね! この間、満天の星空を見たいって言ってたからさ!」

 

そうだ、思い出した。山梨出身の彼女と、神奈川出身の俺。満天の星空を見たいと言った俺の言葉を彼女は覚えてくれていたらしい。

 

 

「すごく綺麗だな…。ありがとう。」

 

 

素直に、彼女の計らいに対して感謝を述べる。

 

 

「じゃあ、次夏が来たら、お返しに海にいこうか」

 

「え?」

 

「ほら、前、海なんてめったに行かないから海に行きたいって行ってたじゃんか。だから、海に沈む夕陽を見せてあげるよ」

 

「やったぁ!絶対ね、約束だよ!」

 

 

そう言って彼女は満面の笑みを浮かべる。

 

 

「そういえば、今日と明日が流星群が1番見えるらしいよ!見えるかなぁ~」

 

 

彼女はまた上を見上げた。来年、彼女はこの約束を覚えているだろうか。

 

 

いや、覚えていなくてもいいか。

 

 

 

「ほら、見て!流れ星!!」

 

 

そう言ってはしゃぐ彼女の横で、俺も空を見上げる。そっと見上げた空に、とても大きな流れ星が俺らの空を駆けていった。

 

 

どうかこの時間が永遠に続きますように

 

 

俺は心の中でそう願い事を叫ぶ。

 

 

隣を見ると、彼女も目を瞑って何か願っているように見えた。

 

 

彼女は何を願っているのだろうか。

 

 

 

そう思う俺の頭上を小さな流れ星が通り過ぎていった。