夏の終わり~花畑~

 

 

 

やっと着いた…

 

埼玉から遥々5時間、最後は二両編成の電車に揺られながらやっとの思いで到着した。

 

 

空は曇っており、今にも雨が振りだしそうな様子である。

山の天気は変わりやすいなんてのは本当にその通りだ。さっきまで笑っていた空は、いつ涙を流してもおかしくないくらいまで暗くなっている。

 

大学2年生の夏休みにここに来て以来、かれこれ何度目だろうか。今では研究も進み、今回の成果次第ではここに来るのは今年が最後になるかもしれない。

 

長く続けてきた研究がおわるだろうという嬉しさと、ここにはもう来ないかもしれないという寂しさが入り交じって複雑な気持ちになる。

 

 

20年近く同じ植物の研究を続け、ここに来る度に自然が見せる姿に感動させられる。

 

相変わらずボロボロの宿に旅道具をしまい、私は身支度を整えて再び外に出た。

 

すると、なんとなく外の景色が明るくなっていた。

山の天気は変わりやすいなんてのは本当にその通りで、さっきまで泣き出しそうだった空は泣きべそかいた顔の中に微かながら笑顔を浮かべている。

 

もしかしたら、自分が来たことを喜ぼうとしてくれているのかもしれない。まぁ、そんなわけないか。

 

 

 

雲の切れ間から覗かせた太陽の光が一輪の紅色の花を照らし出す。

 

 

あ、アサマフーロだ。

 

 

初めてここに来たときに見つけて大好きになった花。

 

 

こいつも俺を迎えてくれたのだろうか。

 

 

そんな思いを片隅に、私はまた植物の探しに山へ一歩を踏み出した。