蚊帳の外

 

あぁ、今日もか。今日もまた、蚊帳の内側に入る事は出来なかった。

夜が更けて皆が寝静まった頃、その辛さを実感する。

 

あの時は蚊帳なんてものはなかった。

みんなの笑い声が鳴り響いていて、外と内とを隔てるものはなかった。

 

なんてザマだ。

いつまでも蚊帳がないなんて思っていたあの頃が馬鹿馬鹿しい。

 

分かっていたじゃないか、いつも結局はこうなる。それでも淡い期待を抱いてしまうんだから、心というものはなんて残酷なんだろう。

 

「あなたも蚊帳の外ですか?」

 

どこからか声が聞こえてきた。どうやら、彼も僕の仲間なようだ。

 

「えぇ、蚊帳の外ですよ。今日こそは蚊帳の内側に入ろうとするのに、いつも失敗する。もうどうしたらいいのか分からないんです」

 

すると、相手は怪訝な表情を浮かべたり同情する様子もなく笑顔で言った。

 

「いいじゃないですか、蚊帳の外でも。蚊帳の外にいたってあなたは立派にご飯を食べれている。蚊帳の内側のニンゲンだけが全てじゃないんですよ。」

 

確かにその通りだ。別に蚊帳の内側に入ることをしなくても僕はこれまで生きてこれている。蚊帳の内側だけが全てじゃないんだ。別に蚊帳の外側だっていいじゃないか。蚊帳の内側のニンゲンからしたら僕は要らない訳で、こうやって蚊帳で隔てているだけ。そう思うと、だいぶ気が楽になった。

 

 

「さて、そろそろ行きますか?」

 

彼は優しく僕に言った。

 

「そうですね、ここにいたって僕は所詮蚊帳の外なんだ。だったら他の所に行った方がいい。」

 

そう返事をすると、彼はニコッと微笑んだ。

 

そして、窓のわずかな隙間から僕たちは外の世界へ旅立っていく。

 

 

今日もまた、蚊帳のない部屋で寝ているニンゲンの血を吸うために。