小噺~落語より~

 

 

昔のお話、時は江戸時代。たいそう有名な医者が道路に落ちている財布を見つけたそうだ。当時は警察に届けるなんていう文化はないから、財布を見つけたら拾って自分のものにするか見なかったふりをするかのどちらかであった。

 

医者はその財布を拾おうとしたが、その医者は世間でも顔が知れた名医。周りの手本となる自分がそんなことをしてはならないと戒め、周りの目を気にしつつ、医者は財布を拾うのを諦めた。

 

そしてそのすぐ後ろには、村で一番大きい寺の住職が歩いていた。

 

坊主は医者がその財布を諦めたのを見ると、何の躊躇もなくその財布を拾った。

 

その様子を見た医者は納得がいかなくてその坊主に取っ掛かった。

 

 

おいお前、私はこの村で名だたる医者である。世間様のために私はその財布を諦めた。お前も同じくこの村では名だたる寺の住職。世間の見本となるお前がそんなことをしていいのか。

 

 

医者が坊主にそういうと、坊主はゆっくりとした口調でこう言ったそうだ。

 

 

 

医者が諦めたものを処理するのが坊主の役目でございます。