特別急行

 

 

やばい、遅刻する…!

このままじゃ1限の授業に間に合わない!

 

そう思いながら、必死な思いで駅までの道を走る。

 

 

すれ違う電柱やコンビニにも挨拶せず、ただひたすらに駅へと走る。近所のおばちゃんなんかももう無視だ。

 

 

 

しかし、努力はむなしくも散った。

 

 

改札を通った瞬間に電車が出発し、ホームには自分だけが取り残される。

 

 

終わった……

遅刻確定だ……

 

 

今まで1回も休んでいなかったのに、その記録に遅刻という傷がつくとは…。

 

 

 

絶望に飲まれていると、どこからか踏み切りの音が鳴り響いて目の前に小さな妖精が現れた。

 

 

「なんてあなたは真面目なんでしょうか! 私はあなたが毎日真面目に大学に通っているのを知っています! 大学生の鏡とも言えるあなたを私が助けてあげましょう!」

 

そう妖精が言うと、目の前に一本の電車が現れた。

 

 

「さあ、私があなたのために特別な急行を用意しました! これに乗れば大学まで一直線です!」

 

 

妖精に言われるがまま電車に乗り座って揺られていると、いつの間にか自分が大学のベンチに座っていることに気がついた。

 

 

ハッとして時計を見ると、授業開始の30分前。

 

 

夢のような話しだが、これで俺の無欠無遅刻記録は更新され……夢…?

 

 

 

 

 

俺はゆっくりと目を覚ます。

 

 

夏の暑さと鳴り響く蝉の声で、ものすごく居心地の悪い朝だ。

 

 

ハッとして時計を見ると、授業が開始して30分が経っていた。

 

 

 

 

あー、もうだめだ…

 

 

時計を見て絶望し、もう一度布団に寝転がる。

 

 

 

そういえば、何か夢を見ていたような気がしたんだが…思い出せない。

 

 

まぁ別にいいか、どうせ1限も2限も時間的に間に合わない。諦めよう。

 

 

 

 

 

そして、俺は今日も何度目かの特別な休講をした。