夏の終わり~オーケストラがやってきた!~
今日は始業式!
私は1ヶ月半ぶりに制服の袖に腕を通し、太陽の降り注ぐ世界へ踏み出した。
明るい景色とは裏腹に、私の耳には沢山の騒音が飛び込んでくる。
風の吹く音、その風が木を揺らす音。自分の足音、見えないどこかで走っている車のエンジン音、すれ違う人の笑い声。全ての音が私の耳に入ってきては、それぞれが激しい主張を繰り返す。
どうしてこんな耳なのか、騒がしい音に私は今にも泣きそうになる。
しかし、その騒がしい音の中でも耳に心地よい音を探す。道端の草が風に揺れる音。そこで密かに鳴く虫の声。その美しい音を探していると、私は栓もせずにこの耳を愛していこうと思える。
そして、今日がこんなにも嬉しいのは、私の学校にオーケストラがやってくるのだ!
かれこれ7年目、毎年夏休み明けの始業式ではどこかの大学のオーケストラがうちの学校に来ていろんな曲を演奏してくれる!この日だけは、自分の耳も愛せるようになるのだ。
さて、朝の会が終わって先生に誘導されながら体育館に入ると、そこには大勢のオーケストラの人たちが待ち構えていた。沢山の楽器を目の前にして、私の胸は激しく高揚する。
袖の方から黒い服を着たおじさんがやって来て、オーケストラの目の前に立つ。
その人が細い棒を振り下ろすと、色々な音が私の耳に飛び込んできた。
さっきまで耳の奥まで聞こえていた雑音はきれいさっぱりなくなり、オーケストラの美しい音色だけが流れてくる。
このひとときだけが、私の嫌な毎日を忘れさせてくれるのだ。
外の空気は少し涼しくなってきた。
あのひとときは、私の胸にいつまでも残り続ける。
私の耳にはさっきまで聞いていたオーケストラの余韻がまだ残っている。
微かに耳に残るその音を胸に、私は夏の終わりの道を駆け出した。